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Workshop for the 10th Anniversary of Japan Bach Concours at Hamarikyu Asahi Hall, Tokyo

2019年9月23日(東京)


 バッハをなぜ学ぶのか、何を学ぶのか、どのように学ぶのか。日本バッハコンクール10周年記念のワークショップ〈バッハづくし〉は、まさにこの主題のもとで進められたように思います。まずピアニストの立場から私が講演をさせていただき、午後からはオルガニストの松居直美先生とバロック・ダンスの浜中康子先生のお話を拝聴しました。ご著書もさることながら、実際の音や舞踏は大変すばらしく、多くの気づきと感動をいただきました。
 私は古楽専門家でも宗教音楽家でもなく、ほとんどのピアニストと同様、バッハ以降の作曲家と向き合う時間の方がはるかに長い中で、バロック音楽との関わりを持っています。とはいえ、パリ留学中の逼迫した経済的事情から始めた室内楽や伴奏の仕事は私の礎になっており、夥しい数の本番やレッスンの中で得てきたものは少なくないと思っています。私が主に手掛けたフルートやオーボエは、レパートリーがバロックと近現代に集中するため、独学であれ何であれ、通奏低音が実践できなければ仕事になりませんでした。初めのうちは巨匠たちの演奏を聴きながら写譜に徹し、現場で細かな修正を重ねることで勘をつかんでいきました。即興的な装飾付けも模倣から始めるほかありませんでしたし、フルスコアを見ながらその場でピアノ1台に直していく作業は日常の出来事でした。メンバーが足りない合奏団では、通奏低音だけでなくセカンド・ヴァイオリンを担当することもありました。言ってみれば、耳と指が先に経験して、後付けで理論を照合させていったことになります。
 間違えを指摘したり批評をすることが悪いことだとは思いませんが、300年近く昔の作品を再現することは途方もない作業で、真実が形を持たないような芸術において間違うことを恐れていては、何も成し得ません。今回の講演では、楽譜に書かれていない即興的な装飾を私自身がどのように学んできたかを話しましたが、それこそ正解のない話なので、何が正しいのかを伝えることが目的ではありませんでした。
 《シンフォニア》においてバッハの弟子たちが行ったこと(装飾譜の作成)は多くの示唆に富んでおり、パウル・バドゥラ=スコダが著書の中で残した《イギリス組曲第6番》の装飾例は、私たちへの実践を強く促すものです。それぞれの巨匠が施しているアーティキュレーションやオーナメントを写譜して、繰り返して模倣することで身体レヴェルに落とし込むこと、また通奏低音記号からのリアリゼーションでは、ソリストの癖や音感を考慮しながら一つでも多くのヴァリアンテが作れるように勧めます。その具体例として学生時代に演奏した《ブランデンブルク協奏曲第5番》を挙げ、私自身がコンサート後に採譜した楽譜を紹介して、本番で予定していた譜面からどれだけの変更(即興)を施したかを見ていただきました。テレマンの《ファゴットと通奏低音のためのソナタ ヘ短調》では2つのチェンバロ譜を見比べ、ソリストがファゴットの場合とリコーダーの場合でリアライズにどのような違い(配慮)が必要かを感じ取っていただきました。私の最良のテキストだったカンタータ第44番《人々、汝らを除名すべし》を紹介する時間がなかったのは残念ですが、最後に《フランス組曲第3番》を少し聴いていただき、バッハ演奏におけるソステヌート・ペダルの活用を提案しました。「バロックの靴に足を入れてみること」というトン・コープマンの肉声に、どれほどの勇気を得たことか!
 短い時間だったこともあり、とりとめのない話になってしまいましたが、このような貴重な機会を与えてくださった東音企画と日本バッハコンクール実行委員会、そしてお聞きくださった皆様へ心から御礼を申し上げる次第です。
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