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ユーゲントアルバムの想い出

2020年6月17日(水)


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 初めて《ユーゲントアルバム》をセミナーで取り上げた夜、家内が義父から受け継いだレコード・コレクションの中から《ユーゲントアルバム》を取り出してきました。ジャケット表面にはシューマンの作品とは全く関係のない漁夫の砦が使われており、ハンガリーに縁が深い義父らしいチョイスと思ったわけですが、裏面に献辞が書かれており、まだ子供だった家内への誕生日プレゼントだったことが分かりました。レコードを入れるビニル袋に「きくや蓄音器店」と印字されており、おそらく修学旅行の引率中に京都で購入してきたのでしょう。


 この曲集はシューマンが長女マリーエの7歳の誕生日に送ったもので、子供の成長やシューマン家の日常の出来事が綴られた家族日記とも言えます。娘に注がれた愛の深さは、初版譜からもうかがい知ることができます。シューマンは娘の成長やシューマン家の出来事を残した曲集から10の情景を選び、ルートヴィヒ・リヒターに表紙画の制作を依頼しました。中でも印象的なのは〈はじめての喪失〉で、その年の始めに亡くなった小鳥を手にして悲しんでいるマリーエの姿。この鳥はちょうど1年後に《森の情景》の中で再び現れるのですが、薄明の中で何か警告めいた存在として鳴くばかり。


 リヒターが手掛けた多くの仕事の中には、グリム童話集の表紙画もあります。グリム兄弟はかつて1,000マルク札に描かれていましたが、ユーロ導入と共に、メルヒェンの森へと帰っていきました。ちょうど20年前、クララ・シューマン国際ピアノコンクールでいただいた賞金を小切手から現金に換える際、デュッセルドルフの銀行で手渡されたのは1,000マルク札ではなく、新札で揃えられていた100マルクでした。今となっては懐かしいクララの紙幣! その時の行員はファイナルステージを聴きに来られていた観客の一人で、実にドイツらしい祝福をいただきました。


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